【ストーリー】
高校2年の夏休み、天才的な数学力を持ちながらも内気な性格の小磯健二は、憧れの先輩、夏希にアルバイトを頼まれる。二人が辿りついた先は、長野にある彼女の田舎。そこにいたのは総勢27人の大家族。夏希の曾祖母・栄は、室町時代から続く戦国一家・陣内(じんのうち)家の当主であり、一族を束ねる大黒柱だ。
栄の誕生日を祝うために集った、個性豊かな「ご親戚」の面々。そこで健二は突然、夏希から「フィアンセのフリをして」と頼まれてしまうが・・・
(公式ホームページより引用:http://s-wars.jp/)
【感想等~面白い話なんですが・・・】
それほど長い映画ではないにもかかわらず(2時間弱)、長く感じてしまう映画でした。腕時計を何度か確認したので、長いな、と思ったのでしょう。
設定の割には、ストーリーが丁寧過ぎるのかもしれません。
前半の展開が長い(ゆっくり)なのです。その割には、必要な情報が提供され切れていない感想を持ちました。
例えば、憧れの夏希先輩にアルバイトをしないかと誘われる二人の男子学生ですが、なぜ、夏希はそこに募集をかけに行ったのかは描かれていない割には、フィアンセのフリをする、というバイトの内容は非常にインパクトが強いのです。
だからこそ目立つのですが、話の筋からすると、夏希は「自分があこがれの対象である」ことを少なからず認識している必要があるわけで、そう言う意味では、冒頭からの数シーンで夏希=小悪魔、という印象付けに失敗している感があります。爽やか系で描かれてしまっているので、いろんな意味で「?」という、キャラに合っていない言動が目立つところがあります。
一方、仮想現実空間の「OZ」で事が起きてからの展開から次第にスピードが増していきます、急加速、というわけではないのですが、少しずつ加速していくところが小気味のいいものです。
しかし、人物像がぶれすぎやしないか、というのも正直な感想です。ただ、人間ですから、首尾一貫して性格がぶれないわけもなく、そう言う観点からすると「人間」が描けているとは思います。
それはどこに現れているかというと、シーンごとにどっしりと構えている人物と、極端に動揺する人物が入れ替わるのです。
物語という点では、あれ?この人こんななの?という点が多すぎて、印象が少し薄いような気がします(効果的に使えていない、というところでしょうか)。
【ここからいい話】
一家の長、陣内栄(大ばあちゃん)は、素晴らしいです。多分、夏希の嘘(偽フィアンセ)のことも初めから見抜いていたのではないかと思えます(直接的な描写はありません)。
そして、彼女の姿に「できないではなく、できることが何かを考えることが肝心」ということを思い知らされるのです。これは、きっと見ればわかります。もちろん、直接彼女がそれを誰かに語ることはありません。でも、自分が何をすべきか、何ができるかを考え、そして即行動に移す・・・本当はそれが当たり前なのがいいのでしょうが、現実はマイナスに考えることの方が多いのではないでしょうか。
彼女は「OZ」の世界には現れません(利用はしています)。そこでの混乱が何かを知らないまま、それでも、何ができるかを考え、黒電話を引っ張り出すのです。
そう言う意味だと、登場人物の中の「侘介」とは対極の位置にいる人物なのでしょう。
侘介は「OZ」を非常によく知っていそうです。しかし、それを知ろうとしない人物です。そして、何もできないと決めつけてしまいそうな人物。
この話の中には、アナログとデジタル、というもう一つの対比があるように思えました。
多少ネタバレかもしれませんが・・・
全てを管制している「OZ」システムがおかしくなったのを見越したのか、栄は「黒電話」を利用します。デジタルとは全く対極の象徴と言えるかも知れません。
さらには、「手帳」に書かれた住所録や、届いた「手紙」を引っ張り出し、利用します。
そして、健二もことを起こす時には「紙に手書き」をします。
栄と健二は「花札」をします。
「黒電話」「手書き」、テーブルゲームの「花札」。
そして「暗算」に、最後は「人との絆」。
映画の冒頭に「コミュニケーション」について言及があります。
しかし、きっとこの映画では「絆」なのだと思います。
コミュニケーションなら、電話でもメールでも取ることができます。しかし、「絆」はどうでしょう。
いちばん身近な「絆」=「家族」「親戚」は、最後きっと味方になってくれる人達だと信じたい存在です。
世知辛い世の中で、その絆も怪しげになっていますが、それでも、家族や親せきっていいな、と思える映画でした。
【評点★★★☆☆・・・評価が分かれそうな映画】
個人的には好きな映画です。もう一度映画館で見る?と尋ねられれば、「はい」と即答できます。
しかし、感想にもあるように、前半の情報不足は否めないわけで、とっかかりで「ん?」と思われたら、ちょっと感想が変わってしまう映画です。
ぜひ、腰を据えて長い目で見て欲しい映画、ということでどうでしょう?
文責:逢川