本番最終日(楽日)マチネ(14時05分からの回)、それは発生した。
「え?かとちゃんがまだ来てない?」
時はすでに13時を過ぎ、開場まで30分になっていた。
実はこの日、内照役の加藤は、仕事の関係で豊島区にいた。それは事前に話を聞いていたことであったが、「多分午前中には終わると思うよ」という加藤の言葉を、皆、信じて疑わなかったのだ。
武田が電話する。
「もうすぐ出れると思う」
加藤からの返事はそうだった。
しかし・・・13時33分になっても加藤は来ない。今度は宇都宮が加藤の携帯に電話をかける。・・・出ない。
3度かけたが、3度とも加藤が電話に出ることはなかった。仕方なしに、宇都宮は「何かあったら栃木(当日受付を担当していたアドギルブレインズのメンバー)の携帯に」とAUお留守番サービスに吹き込んだ。そして、加藤の現状がまったく不明の状態で、開場し、客入りが始まった。
実はその時、加藤は豊島区雑司が谷にいた。そう、開演30分前にして、未だ豊島区から出ていない、という状態だった。そのことを伝えようと、宇都宮からのメッセージどおり栃木に連絡をするも、電波が通じない、というお決まりのアナウンスを前にどうすることもできなかった。劇場が地下にあった、ということが災いしたのだ。
おまけに、宇都宮からのメッセージの最後は「じゃあ、開場しまーす」、と、電話を切る直前に発したであろう指示がしっかりと記録されていた。加藤は「いやぁ、あの時は焦ったよ」とあとで語った。
本番10分前。加藤はまだ来ない。加藤演ずる内照は、暗転板付きで初めから舞台には立っているのだが、実際台詞を発するまで30分の時間の猶予があったため、本番開始まで到着しなかった場合の対策が、楽屋で行われた。
本番5分前、受付をしていた昆野(アドギルブレインズ)が、楽屋に「かとちゃん、まだ来てない」の報告。その直後、加藤は劇場入り。客入れのため、劇場の入口付近に立っていた栃木が、加藤の顔を見るなり「あ、トイレ」と、意味不明なことを言いトイレを指差した。実は劇場の構造上、トイレの横に楽屋があったのだ。加藤はそのままトイレへ直行。そして、昆野の背後から楽屋に飛び込んだのだ。
加藤はすぐさま着替え、本番開始1分前、すべての準備を整えたのだった。
そのときの共演者の一言「ま、出番まで30分あるから、ポカリ(スゥエット)でも飲んで気を落ち着かせてくれ」。
そして、舞台は無事に幕を開けた・・・・
なお、加藤の当日13時35分以降のタイムテーブルは以下のとおり(加藤談)。
13時36分
豊島区の明治通りと目白通りの交差点付近にあるコインパーキングを車で出発
13時38分
護国寺インターから首都高速に入る
13時46分
西銀座(だと思うと本人は言っている)インターを降りる
13時53分
新京橋駐車場に車を駐車する。
13時56分
地上に出るも、方向を見失う。近くにいた警備員(多分ウィンズの関係の人)に「ウィンズどこですか?」と尋ねる。
(なお、銀座小劇場はウィンズのすぐそば)
13時59分
地上に出てからひたすら走り、ウィンズ横を通過。
14時00分
劇場入り。客の振りをする余裕などなかった。